1107
「彼はちょうど取引先の社員として俺の相手をしていたところだ。

まさか、あいつがそうだったとはなあ」

そう言った陣内さんに、
「――気づいていたんですか…?」

私は聞いた。

「お前を見たら一目瞭然だ」

気づいていたことよりも、覚えてもらっていたことの方が嬉しかった。

半分ヤケクソになって、苦し紛れに出した彼との過去だったのに。

批判されたあなたに悔しくて、ほとんど勢いだった。

「実は、彼がお見合いの相手だったんです。

母親が決めたお見合いの相手だったんですけど、私は断って…」

声が震えているのは、今にも泣きそうだったからかも知れない。

「大丈夫だ」

そう言って、陣内さんはポンと私の肩をたたいた。
< 90 / 127 >

この作品をシェア

pagetop