兄妹、初恋・・・
「あの、椿野さん…」
「敬人って呼んでくれていいぞ!!!」
「あの、私が敬人さんの妹ってどういうことですか?」
そう言うと、敬人さんは驚いて目を大きく見開いた。
しかし、すぐに悲しそうに目を細め、俯いた。
「…そうか、麻衣は〝覚えてない″んだったな…」
敬人さんがぽつりとつぶやくように言った言葉の意味が、私には分からなかった。
「…どういう、意味ですか?」
「あぁ~っと、つまり…」
敬人さんは、困ったように頭をポリポリかいた。
…なんかこの癖…懐かしいな。
何だろう…
「…やっぱ無理だ。俺からは言えねぇ…」
そう言った敬人さんの声は震えていて…
それ以上聞けなかった。
聞いてしまったら、瞳のふちにたまったあの涙を、私がこぼしてしまいそうだったから。
そのまま「ゴメン…」と連呼すると、敬人さんはこっちを見た。
「このことはあいつに聞け。あいつなら…きっと教えてくれるさ」
敬人さんは、「じゃ、帰るか」と明るくいい、私の腕を引いて歩いた。
『…そうか、麻衣は〝覚えてない″んだったな…』
『…やっぱ無理だ。俺からは言えねぇ…』
『このことはあいつに聞け。』
『あいつなら…きっと教えてくれるさ』
どういうことだろう。
あの人の言うことが、全然分からない。
…でも、これだけは分かる。
私が、とても大事なことを忘れてしまっているということは…