手をつなごう
第一章 出会い
「もう無理だな。こんな奴の事は忘れてくれないか。」


そんな言い方をするなんてずるい。


まるでこちらに未練があるみたい。


有紀は誠の部屋の所々にある「お泊りセット」をバックに詰めた。


全く女は男の部屋に自分の物を置きたがる。


自分の居場所を広げて満足する姿はマーキングする犬と一緒だ。


4歳年上の田中誠と付き合って1年が経った。


仕事が忙しいからと恋人らしい事もほとんどしていない。


会えば喧嘩ばかりでいいかげんうんざりしていた。


そんな2人が別れるのは自然な事だった。


キーケースから誠の部屋の合鍵を外してテーブルの上に置くとなんだか無性に腹が立った。


「じゃ、元気で」


家まで送ると言う誠に背中越しに手を振ると部屋を出た。


篠田有紀。24歳。


夏を目前に独りになってしまった。


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