手をつなごう
教免を持つ有紀がアパレル業界に腰を置いたは誰も驚かなかった。


大学時代からアルバイトしていた下着屋にそのまま就職したのだ。


今は店長としての仕事も楽しくなってきて休みを返上して出勤なんて事もよくある。


「じゃもう帰るから、何かあったら携帯に電話頂戴ね。」


スタッフに挨拶を済ませると、約束の居酒屋に向かった。


外が明るいうちに帰るなんてこんな時くらいかもしれない。


ふと花火大会のポスターが目に入った。


去年買ったが一度も出番のない浴衣を思い出した。


今年こそ着れるはずだったんだけどな・・・


駅前の小洒落た居酒屋の個室に通されると千冬と啓之は飲み始めていた。


「おぅ!有紀遅いぞ。」


「ごめんごめん、啓之おめでと!」


乾杯の仕切り直しをしてから、独身女2人の攻撃が始まった。


プロポーズの言葉は・・・


子供はいつ作るのか・・・


何人作るのか・・・


女としての興味である。


下世話な質問に顔色一つ変えず答えるあたりがさすが啓之である。


啓之は一番大人だ。


世話焼きでだいたいいつも聞き役である。


結婚式は来年の11月。


彼女の誕生日に合わせたそうだ。


「有紀は誠さんとどうなの?」


きたきた。近況報告をし合うのがお決まりコースなのである。


「別れた。」


「えっ!?」


2人の視線を浴びて話題が有紀の失恋へと変わった。


「別れたっていつ?」


千冬は大きな目をさらに見開く。


「お前学習しろよな。」


啓之は呆れた様な口調で煙草に火を付けた。


おいおい、何もそんな言い方しなくてもいいだろう。


「2週間前に。うかうかしてたら先に言われちゃった。別れようって。」


ちょろっと舌を出してみせたのがせめてもの強がりだ。


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