”ただ、愛されたかった…”
 「瑠理!前の方に、すごくやばそうな連中がいるよ!私、あの前通りたくない。」

 夏美がそう言った。二人で、遊びに行った帰り道である…。

 時間も、遅かった。


 「大丈夫…。止まらずに歩こうね。」

 瑠理は、こういう時は、何故か夏美より強気だ。

 でも、この時点では、大丈夫の理由なんて、何もない。

 瑠理のすぐ後ろを夏美が歩く形になった…。

 
 やばい連中とすれ違う時、やっぱり、話しかけてきた。


 「鬼頭さんの事、知ってるか?」


 
 「知ってるよ!知らなくてこの辺で遊べないよ!」

 瑠理は、その男を目で抑えながら、即答した。

 歩く速度は、緩めなかった。夏美は、すぐ後ろにいる。



 「角、曲がったら、ダッシュ!」


 瑠理は、その連中から、少し離れた時、小さい声で夏美に言った。

 二人は、走った。地下鉄の入り口まで、走った。

 その頃、変な噂が、流れていた。

 数人のグループに、力ずくで、車に押し込まれ、回されるという噂…。

 事実かどうかは、確信がなかったけど、やっぱり怖かった…。


 「瑠理。誰?鬼頭さんって?」

 夏美が聞いた。


 「知らない。ただ、そう言った方がいい様な空気だったから。でも、ばれると

 怖いから、早く逃げたの。」

 瑠理は、そう答えた。


 「ハッタリだったんだ。」

 二人は、笑った。


 二人には、軟派を避ける3か条があった。見ない、止まらない、喋らない。


 大体、守っていた。

 面白い軟派もあった。いきなり、「寿司食べに行こうよ!」これには、瑠理が反応

 した。お寿司が、大好きだったから…。後で、夏美に叱られたけど。



 
 ”瑠理の歌手のオーディションが、近づいていた”


 
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