”ただ、愛されたかった…”
「忙しかった~。」

 今日の瑠理は、シャンプー台から、動けなかった。

 それぐらい、次から次へと、お客様が来店した。

 瑠理は、疲れたという言葉を、使った事がない。

 その言葉を使うと、母親がいい顔しない。

 母親に反発もするが、言われた事は、ほとんど

 守っている。


 「篠崎さん、ご飯食べにいきましょう。」

 和子先輩からの誘い。行かない?ではなく

 いきましょう。これは、断る余地のない

 誘い方である。

 和子先輩と、瑠理は、近くの中華料理店に、いった。

 
 和子先輩は、自分の事とか語らない。

 だから、何を話していいか、少し戸惑う…。

 でも、その日は、違った。

 和子先輩が、話し始めた。

 「篠崎さんといると、落ち着くんだ、私は…。

 たくさんの人とは、余り関わりたくない。

 でも、あんたは、別。

 いろいろ話したくなる。

 あんたは、人を安心させる不思議な力を

 持っているんだ…。」

 困った…。瑠理は、返事に困った…。

 確かに、相談をされる方ではある。でも、そんな力は…。

 それに、今は、自分の事で、精一杯。

 正直、めんどくさい話しは、できれば避けたい。

 それが、瑠理の率直な気持ちだった。


 「和子先輩は、なんか目標あるんですか?」


 「目標なんてない。ただ、私は、自分には、負けたくない」


 …そう言った和子先輩の横顔は、とても綺麗で…寂しそうに見えた。


 でも、強さ…を感じた…。

 

  
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