ゴシップ・ガーデン

ヒオカ先生は、
やっと顔を上げて
ゆっくりと微笑んだ。


「うん。そうだね…。
残して貰えるよう頼んだけど、
無理だった」

悲しそうなやり切れない表情で。



あたしは胸が痛かった。


かわいそう、バラが。


かわいそう、ヒオカ先生が。






「そうだ！植え替えたら？」


何で思いつかなかったんだろう。

パッと思いついて、
前のめりになった。


「別の使ってない花壇見つけて、
そこに移せばいいんだよ！」


それがいい。


良いアイデアだと思ったのに、

拍子抜けするくらい
ヒオカ先生の暗い表情に
変化はなかった。


「…無理だよ」



無理？


「何で？」

意味がわからず聞き返した。


「今は時期が悪いんだ。
植え替えに適してるのは
１２月から２月くらいまでだから…」


「どうして？」


「冬場は、バラは落葉して
活動を休止している状態だから
植え替えやすいんだけど、

夏場は光合成をして
成長も活発的だから。

素人作業で根を痛めてしまうと、
一気に枯れてしまう」


「…そんな…」

あたしは絶句した。



「工事までもう日もないし、
植え替える場所だってないし。

第一、素人の俺が植え替えたって、
ダメにしてしまうに決まってる。

だから、どうしようもないんだ」

掠れた声で、
あたしの横を通り過ぎた。



「…じゃあ、このまま、
あのバラたちが死んじゃうの
ほっとくしかないって言うの？」