ゴシップ・ガーデン
父は、
汗をハンカチでぬぐいながら、

緊張して強張った顔で
不自然な笑顔をつくってる。



「ごめんな、シイナ。
無理にでも、
シイナを連れ出すべきだった」


開口一番、父は頭を下げた。



「何?」


不安で押しつぶされそうだった。

一体、何だというの。



「…まさか、
こんな早くに…とは…」


父は、言いにくそうに
顔を歪めて、
額から流れる汗をぬぐった。


父のこの大量の汗は、
夏のせいだけじゃないって
なんとなく感じた。



心拍数が上がっていく。



ようやく父は、
意を決して口を開いた。





「シイナの、

お父さんが、

亡くなったんだ」






体中の血が
ゆっくりと冷えていった。





しばらく話をしたあと、
父は帰って行った。



あたしは、
カフェスペースの中で、
椅子に座ったまま。



そうだ、
持ってきた母の保険証を、
入院受付に持って行って、

入院の手続きを
しなきゃいけなかった。



立ち上がろうとして、
すうっと身体の力が
抜けていった。



崩れ落ちるように
床にへたりこんだ。


あたしの手が当たって、
テーブルの上に置いてあった
雑誌がバサバサ音を立てて
床に落ちた。




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