ゴシップ・ガーデン
「一人で大丈夫?」


アパートの扉の前で、
ヒオカ先生は
あたしを気づかうような視線を向けた。



「もう大丈夫!
話聞いてくれてありがとう。
すっきりした」


あたしは、
ヒオカ先生に向かって笑顔をつくった。



「…ならいいけど…、…でも」


「ほら、誰かに見られちゃ困るよ!」


笑顔をキープしたまま、あたしは、
何かを言おうとしたヒオカ先生の
背中を押した。



「…何かあったら、
いつでも聞くから」


「ありがと、ヒオカ先生」



ヒオカ先生の足は
ゆっくり反対方向を向いて
歩きだした。

何度かアパートを振り返って、
車に乗った。




一人部屋に入って、
あたしは机に向かった。


机の中から、
一冊の通帳を取り出して、
中を開いた。

しばらく眺めてから閉じた。



それから赤本を開く。

東京の大学名が書かれた赤本。





翌日もその翌日も、
あたしはいつも通り
学校の図書室の自習室へ通って
受験勉強を続けた。


母は明日にでも
退院できるのだそうだ。



昼前、あたしは外に出て、
バラの花壇の前で佇んだ。


茶色の枝から、
若葉が生えてるのがうれしかった。


晴天の空。


目の前が真っ白に感じるくらい、
日が照って眩しい。


図書室の冷房のせいかな。


暑いのに、身体の芯は冷えていて、
あたしは花壇の前から動けずに
ぼんやり立ちつくしていた。




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