ゴシップ・ガーデン
あたしは黙ったまま
ヒオカ先生を見返した。



「…ゴメン、
気になって拾ったんだ」


ヒオカ先生はポケットから、
折られた小さな紙を取り出した。


病院であたしが捨てた。

父から手渡された、
あの人の葬儀の場所と
日時が書かれているメモ用紙。



日程は、今日。


時間は、…もう始まっている。





「行かなくて、いいの?」


再度ヒオカ先生は、
言葉を選ぶような、
慎重な声であたしに尋ねる。



「そんな暇ない。
あたし、勉強しなきゃ」


あたしはプイっと
ヒオカ先生に背を向けた。



「言いたいことあるって
言ってたよね?

佐野さんの様子も見てて、
ほんとは行きたいのかな、って。
…行かなくていいの?」


ヒオカ先生は
あたしの背中に話しかけてくる。



「行ったって、
もう聞いてもらえないじゃない」


あたしは背を向けたまま
皮肉っぽく答えた。



「でも、本人に会えるのは、
これで最後だ。
遠慮なんてしなくても…」



「遠慮?
あたしそんないい子じゃないよ?
あたし、最低な人間だもん!」


振り返って、
ヒオカ先生の顔を見て言った。



「え?」





『だったら、ちゃんと償ってよね』


あの人に対して言った、
自分の声。


そのぞっとするくらい
冷たい自分の声が、
今も耳に残っている。




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