ゴシップ・ガーデン
喪主のその女性は、
表情をピクリとも変えず、

無言のままじっと
あたしの顔を見据えている。


居たたまれないような、
心細い気持ちになって
足がすくんで身体が震えた。




背中に添えられていた
ヒオカ先生の手が離れた。


ヒオカ先生は半歩前に出て、
喪主に対して頭を下げた。


見上げたら、
ヒオカ先生は振り向いて
優しげに微笑んでくれた。




喪主は、微動だにせず
ずっとあたしを見続けている。


何を思っているんだろう…。


視線を浴びた顔の皮膚が
ピリピリする。


喪主の目を
見ることができなかったけど、

意を決してあたしは
喪主に深々と頭を下げた。



喪主は、
あたしが顔を上げるまで、
あたしをじっと見つめていた。


そして、あたしに対して
小さくお辞儀をした。

束ねた髪も乱さずに
とても上品な所作で。



喪主が顔を上げたとき、
一瞬目が合った。



表情を変えないまま、
すぐに喪主は取り巻きとともに
その場を離れていった。



あたしに対して、
気をつかって
席を外してくれたのか、

単にあたしを見たくなかったのか
わからないけど、
中に入ることを許してくれた。


それだけで、
とてもありがたいと思った。




ヒオカ先生の手が、
再びあたしの背中を押した。


一歩一歩、震える足で
豪華な祭壇に進む。



祭壇の遺影を見上げた。



ああ、そうだ、
こんな、顔だった。


やっと、思い出した。




「…どうか、
うぬぼれないで下さい」



遺影を前に、
こぼれるように言葉があふれる。


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