ゴシップ・ガーデン
母に指定された駅に行った。


私服で来いって言うから、
わざわさ家帰って着替えてから。



改札を出たら、
母が手を挙げてあたしをむかえた。


母の腕には包帯、
顔にも絆創膏がはられた状態。


目の近くのアザを
上手く化粧で隠しているけど、
腫れぼったさは隠せていない。


まだ、痛々しい。

だけどニコニコ笑っている。



「ちょっと!
ケガはホントに大丈夫なの?!」


「平気よ。じゃ行きましょう」


「行くって、どこに?!」


「まぁ、良いから♪
着いたら話すから」


「ちょっと!」



何も答えず母は駅を出て行った。


繁華街をスタスタ歩く母に
ついて行きながら、
なんとなく懐かしいような
胸の痛みを感じた。



そう、あたしは
この道を知っている。




jazz bar south


そう掲げられた店の中に
入って行った。


薄暗くて、古い。

けど上質だった。


ステージがあって、
客席(ホール)あって、
奥にバーカウンターがある。


母はカウンターに進む。


カウンターの一番奥には
予約席と書かれた札が
三席分置かれていた。



マスターらしき人が、
三席分のその札を取って、
母とあたしを席に促した。


「お久しぶりです」

マスターは、母に頭を下げた。

そして、あたしを見て
目を細めた。


母は静かに微笑んだ。

古い、知り合いのようだった。



三席?

疑問に思いながら、
あたしは勧められた
奥から3つ目の席に座った。


母は奥から2つ目の席に座る。

一番奥の席を空ける形だった。



席に座った母は
「あの人とよく来たの」と、

隣の空いた席を見ながら
つぶやくように言った。
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