ゴシップ・ガーデン
「聞いたんだ?
別れたってこと」


うなずいたあたしを見て、
母は、ふっと笑った。



「そうなのよ、
まぁた、別れちゃった」


肩をすくめてそう言うと
母はジンジャーエールを
ぐっと飲み干した。



あたしのジンジャーエールは、
口をつけられないまま、
氷が溶けていってる。



「男運なさすぎじゃん」


言ってから、
あ、ちょっと皮肉過ぎたかな、
と思った。


けど、ずっと思ってたことだ。



「私って不幸だと思う?」


気を悪くした風でもなく、
母は興味深げに聞いてきた。



聞かれたから
あたしはうなずいた。



「…まぁ、一般的な人と
比べたら…」



あたしの同級生の大半は、
両親がそろっている。


今さら、そんなことを
不平に思ったりしないけど。



幸福の価値観は
人それぞれだとわかってる。



けど、実際、結婚して、
子どもを産んで、添い遂げる。


そういうことに
“幸せ”って言葉が
一番多く使われてるじゃない?


紛れも無い事実でしょ。



それが人として
基本的な流れなのだとしたら、

誰とも添い遂げられない母は、
きっと誰といても
幸せではなかったんじゃないか、
って。




そしたら、母は、
意外なことを口にした。



「そうねぇ…。

けど、言うほど、
不幸な人生でもなかったわよ。

だって、あんたがいるから」



「え?」



「何よ、その意外そうな顔は」


母はふき出すように笑った。


「失礼ね。
私をどんな女だと思っていたの」



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