ゴシップ・ガーデン
「あたしの気も知らないで、
自分だけ言いたいこと
言わないで」



あたしの言葉に、
母は、目を細めた。



「言いなさいよ、もっと。
黙ってないでさ。

こんな女だけど、
たった一人の母なのよ」




あたしのジンジャーエール。


溶けていくさまは
目には見えないけど、
確かに少しずつ溶けている。


グラスの外側についた水滴が
一滴流れ落ちた。



母の前でガラにもなく、
しんみりとした気持ちになった
自分に少し驚いていた。




それなのに、
せっかくのしんみりは、
あっという間に消えてしまった。



受信の振動を察知して、
母がハンドバッグから
ケータイを取り出したときに。



ケータイを確認してる
母の顔がニヤけている。


不審な目を投げかけたら、



「ふふ、実はね…」


もったいつけた言い回しに、
嫌な予感がした。



「実は、新しい良いオトコが
できたのよ♪」


母は、へへっと笑って
うちあけた。



「え?!」


母をちょっと見直した
ばっかだったのに、
あたしがバカだったのか、

ほんとこの人は油断ならない。



「入院先の病院の職員の人
なんだけどね♪

交通事故ってことで、
入院費に関して
保険会社とのやり取りがあるのよ。

めんどくさいって思ってたら、
その対応をしてくれた
事務員の人がすごく丁寧で。

年上でバツ一なんだけど。

すでにアドレスは交換済みで、
今メル友♪」



母は、ケータイを振って
ウインクして見せた。


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