ゴシップ・ガーデン
自然に会話の中で、
母の口からすんなり出た
“あの人”の話を、

あたしもすんなりと
聞いて答えた。


今までになかったこと。


あたしの中で、母との関係が、
少し変わってきている
実感があった。


くすぐったい感じ。




「…わかった。
大学、考えてみる」


アパートの外階段を上がりながら
ポツリとつぶやいたら、

母は、
子どもみたいに嬉しそうに
「約束よ」と、にっこり笑った。



**大学は、ヒオカ先生の
出身大学でもあったから、
それもイイかも、と思った。








塾に頼らない高校教育を
掲げているうちの高校では、

夏休みを通して
たくさんの補習が行われている。


図書館も
休みなく開館しているし。



家だとダラけそうだから、
あたしも苦手科目の補習には
積極的に参加して、

それ以外は
図書館の自習室で勉強。




昇降口の掲示板に、
補習のスケジュールと
担当教師名が張り出されている。


一番に探してしまうのは、
自分が受ける授業よりも、
ヒオカ先生の名前だった。


今、ヒオカ先生は、授業中。



授業中の教室の前を通ったら、
授業をするヒオカ先生の声が
聞こえてきた。


立ち止まって耳をすませた。


抑揚のない声。

丁寧な授業。




あたしの手を引っ張って
校内駆け抜けた。



後で冷静になって考えてみたら、
マズかったんじゃないかな?


変な噂立ってなきゃいいけど。



ヒオカ先生に引かれた手に、
感覚が残っている。


思い出すだけで、
ハラハラしてドキドキする。



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