ゴシップ・ガーデン
「へぇ〜。確かヒオカ先生
理学部化学科だったよね。

ねぇ、大学って楽しかった?」


素朴な疑問を投げかけたら、



「うん、楽しかったよ。

研究室にこもってたばっかだけど」


と、ヒオカ先生は苦笑いした。



「何の研究してたの?」


「生化学だよ」



「…生化学?」


「うん。生化学っていうのは、
主に生物の細胞の中で起こる
化学反応を解明したり、
利用したりする学問なんだけど、

オレがやってたのは、
代謝に関わる酵素の…」


弾んでた話の途中で、
ヒオカ先生のケータイが鳴った。



「ちょっとゴメン」と
席を立って少し離れて電話に出た。



こういう間って、
何していいか迷う。



早く電話終わらないかな。


早く話の続きを聞きたい。


研究の話、
イキイキした顔してた。


だからもっと聞きたい。


他愛ない話をたくさんしたい。



どうして
化学に興味を持ったのかとか、
この大学選んだ理由とか、

教師を選んだ理由とか。



聞きたいこといっぱいあって、
何から聞いたらいいか
迷うくらい。




…なんて、
久しぶりに雑談ができて、

あたしはすっかり幸せな気分を
味わっていた。




なのに、それを邪魔するなんて
誰からの電話?



恨めしげに、
ヒオカ先生のケータイを睨んだ。



誰からの着信か、
何を話してるのかも
わからなかったけど、


話の流れでヒオカ先生が
相手の名を“さあや”
と呼んだように聞こえた。




一瞬にして、
凍てつくような絶望感に襲われた。


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