ゴシップ・ガーデン
「だから、お願い、
あたしには、
ヒオカ先生だけなの…!」



すがるように見つめ上げて、
掴んだ腕にいっそう力をこめた。




「あたし、ヒオカ先生が好き…!」




訴えるように想いを告げた。



見開いたメガネの奥の瞳が揺れた。



短い沈黙があって、
波が押し寄せるような
動揺が広がった。




「…佐野さん、何言って…」


やっと口を開いたヒオカ先生は、


「…そんな急に、何、冗談を…」


いいよどんで、
あたしから目をそらした。



その顔は、あきらかに困っていた。





とたんに、冷静さを取り戻した。


良い反応を
期待してたわけじゃないけど…
悲しかった。



「…冗談で告ったりするわけ
ないじゃん」


目を細めてつぶやいた。



困ったヒオカ先生の顔を
これ以上見たくなかった。



逃げるようにその場をあとにした。



「佐野さん!」



あたしの背中に呼びかけたけど、
ヒオカ先生は、
追ってくることはなかった。



涙が流れる。




それでも、
想いを伝えたことに
後悔はなかった。



伝えずにはいられないくらい
好きだったから。


想い続けることにも
疲れていたから。



想いを告げないまま、
元カノにとられたくなかった。


せめて、あたしの想いを
知ってて欲しかった。




「男運ない…。血筋かな」



…なんて、ちっとも笑えないわ。



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