ゴシップ・ガーデン

「…そっか。
じゃあ、もう大丈夫なんだね」


ヒオカ先生の静かな声。



鼻の奥がツンとする。


「うん。もう一人でも
頑張れるくらいまで
たどり着いたよ」



「よかった。なら安心だ」



「…だから、今日で最後」



「…うん」



今日を境に、
関係を本当に
一教師と一生徒に戻す。



バラの裏庭で、
話をする前の関係まで。


あたしもそのつもりできた。




ヒオカ先生は、
手を伸ばしてあたしの髪を撫でた。


そして、
いとおしいものを見るように
目を細めて言った。



「いつもそうやって
無理して笑う」



触れられた部分が、
ピリピリと痺れた。



「…無理してるもん」


冗談っぽく、
いっそうニッと笑った。


仕方ないじゃん。



だって教師と生徒の恋愛なんて、
言うほど簡単じゃないもん。



秘めるより、
消すことを選んだヒオカ先生を
ズルいとは思わない。



真面目な選択。その結果。



ああ、うれしい。


あたしを好きだと言ってくれた。



うれしくて、
ますます、好きになった。



何で、こんなに愛おしい人と
離れないといけないんだろう。




日が暮れそうな
東京タワーからの景色を、
恨めしげに見つめた。


涙がこぼれないように。




「日が暮れるのが早くなった。
もう、夏も終わりか…」



ヒオカ先生は、
名残惜しげにつぶやいた。



「ねぇ、ヒオカ先生は今年
何か夏っぽいことした？」



聞いたら、ヒオカ先生は
「…特に何も」と首をひねった。



「じゃあさ、最後に…」