ゴシップ・ガーデン
何かあったら、
絶対また甘えちゃうから。



そしたら、
今日のあたしたちの決心は
無意味になってしまう。



それじゃダメなんだ。



息を吸い込んで、
ケータイから
ヒオカ先生のアドレスを消した。



ヒオカ先生は、
あたしの指をじっと見つめて、
自分もケータイを開いて操作した。



もう一本、花火に火をつける。




「あたしはとにかく
大学に行くことだけを
考えることにする。

…だからヒオカ先生も
後悔のない選択をしてね」


大学院のことを指して言った。



ヒオカ先生は、
じっとあたしの顔を見つめて、
考え込むような表情をした。



「ヒオカ先生?どうかした?」



「…みんなそう言う」


ふっと笑って、ヒオカ先生が、
初めて弱気な顔を見せた。


あたしは目を見張る。



ヒオカ先生は、
暗闇のバラに目を向けた。



「みんなそう言うんだよね。
後悔しないように、って。

当時も、手術を控えた母親も、
進学しろって言ってくれたんだ。

それでも
就職すると決めたのは自分だ。

そのとき、完全に
夢は断ったつもりだったんだ。

後悔はない。
こうするしかなかったって、
納得してた。

…それなのに、今でも思うんだ。

もしあのまま
大学院に進んでいたら、
今の自分はどうなっていただろう、
って。

友吾の結婚式に行って、
研究職についた友吾が
うらやましかった。

同じように研究職についた仲間も」



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