ゴシップ・ガーデン
情けないだろ?
とヒオカ先生は苦笑いした。



あたしは首をブンブンふって
否定した。



「断りに行った研究室の
空気を吸って、鳥肌が立ったんだ。

母親は回復したし、
あのときと違って、
学費をまかなえるくらいの
貯蓄はある。

大学非常勤講師の仕事も
紹介された。

研究職という夢に挑める
最後のチャンスかもしれない。

あきらめたはずなのに、
できるかも、行けるかもって。

一度断ったけど、
教授はまだ待つって
言ってくれてるんだ」



「だったら…思い切って、
進んでみたらいいんじゃないの?」



行きたいほうに
気持ちが向いてるのは
明らかだった。


けど踏ん切りつかなくて、
あたしに弱音を吐いてる。



いつもあたしを助けてくれた
このヒオカ先生が。



当のヒオカ先生は、
いっそう弱々しく
笑ったように見えた。



最後の線香花火に火をつけた。




「研究から離れて3年。

今さら自分にできるだろうか…
っていう思いもある。

教師として、ようやく
やり甲斐も感じ始めていたし。

だから、本気で迷ってるんだ。

それに、ここのバラだって…。
後任を探すにしたって…」



話ながらヒオカ先生は、
あたしの顔を見て、
意外そうにのぞきこんだ。


「珍しくニヤニヤ笑ったりして、
佐野さん、どうかした?」



「うれしくって。
ヒオカ先生が自分のこと
話してくれるのって、
すごい珍しいから」



今までで一番
心が寄り添ったような、
そんな思いがして、
たまらなくうれしかった。


そりゃニヤニヤもするって。


< 212 / 215 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop