Sweet Life【Sweet Dentist短・中編集】
わかってるわよ?

本当は喧嘩なんてするつもりは無いんでしょう?

龍也さんと二人でそんな会話をすることで相手の志気を削ごうとしているんだよね?

でもって、相手が顔色を変えていくのを見て楽しんでいるんでしょう?

まったく、策士なんだから。

なんだか相手に逃げる口実を作ってあげたくなるじゃないの。

「響さん…。怒らないであげて?あたしが悪かったの。響さんの傍を離れちゃったから。ごめんね?」

そう言うと両手を響さんの首に絡めてうんと背伸びをして、チュ…とキスをする。大抵の場合はこれでご機嫌が直るはず…。

ほら…。さっきまでの冷たい怒りの色を含んだ瞳がちょっと驚いたように見開かれて、それからあたしの大好きな優しい色のグレーになった。

あたしも随分彼の扱いになれて来たでしょう?

ちょっぴり策士な所も移ってきたような気がしないでも無いんだけど?

「ふ…ん。しょうがねぇな。千茉莉がそう言うなら許してやるか。お前ら早くどっか行け。もう絶対に俺達の前に姿を表すんじゃねぇぞ。」

響さんの言葉にホッとしたように逃げ出す二人が人ごみに見えなくなるのを確認しながら、あたしは響さんにもたれるように全身を預けて小さく呟いた。


「響さん、助けてくれてありがとう。」

―― あのね、惚れ直しちゃうくらい素敵だったわよ。――


聞こえないように声には出さずに唇だけ動かして言った言葉に…


あなたは気付いたかしら?



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