Sweet Life【Sweet Dentist短・中編集】
「先輩は食べないんですか?」

「あ、ああ俺あんまり甘いもの得意じゃないんだ。紅茶だけでいい。」

「ええ~~?勿体無い。じゃあ、先輩の分も食べてあげますね。」

「…胸焼けしそうだな。まあ、好きなだけ食えよ。亜希を見てるだけで食ってる気分になるからさ。」

「アハハッ、じゃあ、遠慮なく沢山食べちゃいますね。」

お目当てのケーキを数種類目の前に並べ立て、嬉しそうに口一杯頬張って幸せそうに微笑む亜希を見ながら俺は今日の誕生日が人生で最高の日だと考えていた。

明日からは亜希とこんな風に話すことも間々なら無くなるのかもしれないと思うと胸が痛んだが、それでも、亜希のこの笑顔を涙で濡らすことを思うと、無理やり付きまとうのもどうかと思う。

やはり、ここは男として引き際も大切だろう。強靭な意志で無理やり自分を納得させる事にして、今日を思いっきり楽しもうと思考を切り替える。


亜希のこの楽しそうな、幸せな笑顔を胸に焼き付けておきたい。


今だけは、この笑顔は俺だけのものだよな。


紅茶を口に含むと、花の様な香りが体に染みるように幸せな時間をつれてくる。


今この時、俺だけの為に向けられているその笑顔が放つ香りのようで、胸が切なくなる。

俺だけのための亜希の笑顔。


それが俺のずっと求めていたものだった。


最高の誕生プレゼントだよ、亜希。



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