Sweet Life【Sweet Dentist短・中編集】
「亜希…行くなよ。俺といろよ。日本にいたってピアニストにはなれるんだろう?」

亜希は胸に額を当てるようにして、首を左右に振った。


わかっている。


亜希が悩んで出した答えなのだから、俺は応援してやるべきなんだって。


だけど…亜希の気持ちを知ってしまった以上、このまま行かせたくはなかった。


それでも亜希は…


「さようなら。先輩…」


涙に震える細い声でそう呟いた。


亜希は一瞬背伸びをしたかと思うと俺にそっとキスをして、そのまま振り返ることもせず俺から走り去っていった。


まるで俺への想いを振り切るように…。


ただの一度も振り返らずに…


一瞬だけ触れた唇。


亜希はそれだけを残して夢へと飛び立っていった




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