Sweet Life【Sweet Dentist短・中編集】
あたしは1年前のバレンタインで、甘いものが大嫌いな響さんでも食べられるチョコレートを作る事を心に決めた。

春に結婚してからは、勉強と主婦業をこなしながら、時間を見つけてはこっそりと試作品を作り続けてきた。

なかなか思うものが出来なくて、バレンタインがどんどん迫ってくることに、焦りを覚えながらも、ようやくそれを完成させることが出来た1月の半ば。

バレンタインまで1カ月を切っていたけれど、何とか間に合ったと喜んで、パパに試食してもらったら、お店に出してみないかと言われた。

思いがけない事に驚いたけれど、お店に試食品を置いてみたらこれがとても好評で、バレンタイン用にと予約が殺到した。

ただでさえ忙しいお店の手伝いのほかに、予約のチョコレートを作る為に、あたしは毎日遅くまで残業をすることになってしまった。

いろんな賞をもらったことのあるパパでさえも、何度も試してもこのチョコレートの微妙な味が出せなかった。

パパが言うには、このチョコレートには、あたしが響さんを想う気持ちがとても強く反映されていて、それがエッセンス(パパ曰く、恋の媚薬)となっているかららしい。

誰にも真似できないお菓子を作ることは、あたしの夢だったし、それが叶ったのはとても嬉しかったけれど…

結局予約分のチョコレートは、全部一人で作ることになってしまい、あたしは忙殺される羽目になってしまった。

それはあたしにとって、とても誇らしいことでもあったし、やりがいのあることだったのだけれど…

…かわいそうなのは、響さんだった。


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