Sweet Life【Sweet Dentist短・中編集】
店内の甘ったるい匂いだけで眩暈を起こす普段の俺なら絶対にありえねぇことだ。

千茉莉指数がレッドゾーンに突入し、感覚が麻痺している今だからこそ成せる業だと思う。

しかし流石に、あのごった返した店内に入る勇気が無い。

俺にしてみりゃ洋菓子店に来るなんて行為は、そりゃあもう敵陣に乗り込むような心境だぜ?

千茉莉がいなきゃ絶対に半径100m以内には近寄らないだろう。

特にこの時期なんて、店に一歩踏み込んだとたん、甘ったるい香りと女たちの熱気でぶっ倒れるだろう。

それでも千茉莉指数を示す針がレッドゾーンを振り切らないようにと、暫し心の安らぎを求め、ストーカーまがいの行動をしているという訳だ。

店内から聞こえる柔らかな羽で心をくすぐるような声…。

はぁ…癒されるぜ。これで今夜まで何とかもつかなぁ?

千茉莉は分かっちゃいないんだろうな。

俺がこんな風にあいつを見に来ているなんて…。


< 85 / 130 >

この作品をシェア

pagetop