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第1章

覗き見


 19時過ぎにモモエを出た僕は、徒歩で15分の距離にある自宅を目指す。
 途中、商店街を抜けた場所にあるコンビニエンスストアに立ち寄り、顔なじみのオバサンと言葉を交わし弁当を買う。その弁当が入った大事なビニール袋を、できるだけ揺らさない様にして歩く。

 これが毎日変わらない、僕の行動パターンだ。

 真っ暗な自宅。
 灯りどころか、物音一つしない。
 僕が鍵を差し込む音だけが虚しく響き、ようやく玄関に明るさが広がる。

 父は関東電力の最年少部長で、トップでエリートコースを快走中。仕事一筋の仕事人間で、深夜にならないと、まず帰ってこない。社畜の中の社畜。キング・オブ・シャチクだ。

 僕は廊下の突き当たり、右側にある扉を開きダイニングの電灯と同時にテレビのスイッチを入れる。自宅での孤独に慣れた今では、既に寂しいという感覚は無いが、何となく自分以外の音を求めてしまう。

 母は8年前、僕が小学3年生の時に他界した。
 でも、僕が仏壇に手を合わせた事は一度もない。


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