俺と彼女の失恋事情。



      *       *       *





「ほら、話せ」
「ぅ~……いや、でもー……」

僕が話すように言ってみても、彼女は口を濁すだけで、
何も答えない。
というか、でもって何だよ、でも、って。
僕に話に来た癖に……。

「早く話さないと俺は寝る」
「えっ、待って、もぅ、話すよ……」

突然吃驚したように声を上げ、仕方なさそうに口を開く。
……仕方ないのは僕だっつの。

「あのね、涼くん……」

そう言うと、また口を閉じ、すこし躊躇った後、また口をあけた。

「わたし、好きな人がいたの。
ずっとずっと好きだったの。
本当に大好きで、でもね、……でも、そのひとは、
わたしの事が、嫌いだったみたい。」

少し鼻声になりながら、それでも一生懸命に話す彼女。
……本当にその人のことが好きだったんだろう。

「それで?」
「涼くん、は、嫌いな人から好かれて、嬉しい?」

いきなり自分に対しての質問で驚いた。
……僕なら、嫌いなひとから好かれるなんて、問題外だ。
でも、それを言うと彼女はもっと傷つくだろう。
だから、あえて何も言わない事にする。

「嬉しくなんて無いよね、わたしも、嬉しくないと思う」

視線を落として、まるで迷子の子供みたいな表情をした。

「嫌いなひとから好かれるって、凄く嫌な事だと思うよ……。
わたしにとっては、だけど。」

涙を零し、ぽつりと呟いた彼女は、僕より年上なのに、
僕よりずいぶん幼く見えた。

「だけどね……? わたしは、彼から好かれたかった。」
「……!」

失恋の話を聞くのはかなり多いけれど、
彼女の口からそんな言葉を聴くとは思わなかった。

「彼から好かれたかったの……。
選ばれなくてもいいから、……嫌いになんて、なって欲しくなかった」

涙を零しながら云う彼女は、凄く儚げで、
とてももろい存在に見えた。
突然、彼女はふっと目を閉じた。

「ぇ、おい、大丈夫?」

僕は柄にも無くうろたえて、倒れこんできた彼女の鼻と口に手を翳した。
すぅ、という寝息が聞こえる。

「……寝てるだけか」

ただ、少し心配だったので、彼女を(案外軽かった、)自分のベッドまで運んでやる事にした。
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