亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
他とは桁数が抜きん出た、あの高額報酬の依頼が世に浮かび上がってから。
…もうすぐ、一ヶ月の時が刻まれようとしていた。
その依頼に我こそは、と名乗り出た者も何人かいた様だが、それを知ったか知らぬか、ここのところ討伐対象の賊が忽然と姿を消してしまったらしい。
悪事らしい悪事も風の噂に聞かない。連中も、どうやら馬鹿では無いらしい。危険を感じれば素直に身を潜める様だ。
………おまけに、問題のさらわれた御令嬢の行方も一向に分からない始末である。
不思議な事に、賊側は何の要求もしてこない。たいていの誘拐騒動は、身代金というものが付き物なのだが………そんな気配は皆無だ。
(………そもそも……本当にさらわれたのか…って時点から怪しいしな…)
たとえ本当に誘拐されていたとしても、既に一ヶ月が経とうとしているのだ。………殺されている可能性が高い。
街周辺を探せば、案外死体なんぞが見つかるかもしれない。
………いや、獣に持って行かれていれば、もはや骨さえも見つからないか。
街をぐるりと囲む巨大な壁に寄り掛かり、消費期限などいつだったかもはや記憶に乏しい粗食をかじりながら、アオイはぼんやりと思慮に耽っていた。
街の至る所で仁王立ちする“伝え木”という名の連絡板。些細な出来事から今出回っている依頼まで、あらゆる情報が書かれている。
街の民は勿論のこと。商人も、金に困っている狩人も、街に入れば皆まず先にこの伝え木を見に来る。
…だが、狩人は字が読めない。そのため、周りの会話に耳を澄ませるか、もしくは恥を忍んで人に聞くかしなければならないのだ。