亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
街の民から見下されたり、軽蔑の目で見られたり、鼻で笑われたりするのは狩人としては日常茶飯事の事。だが、不愉快にならないわけが無く………そこはやはり、プライドというものが自分にはある。
だからアオイは、意地でも、聞かない。
盗み聞きで充分である。街の民は人見知りが激しいくせに、親しい者を相手にすればお喋りばかりだ。
そんなこんなで、今日もアオイの聴覚は研ぎ澄まされる。
何かおいしい話は無いだろうか、と探ってみるが、あの依頼の話ばかりでこれといって他に無い。
依頼の話ではなく、街で起きた騒動の情報なら耳に入った。
つい先日、うんともすんとも言わずにしばらく大人しくしていた賊が、この街で一騒動やらかしたらしい。
被害にあったのは………今現在の話題の、渦中の貴族だとか。令嬢が行方不明の中での騒動である。
何でも話では、賊数人に屋敷内に忍び込まれた…という事だ。
幸い、襲われた者もおらず被害は少なかった様だが………問題は、屋敷の鍵を盗まれた点だ。
恐らく連中は下調べで侵入したに違いない。
とすれば、あの屋敷が襲撃されるのは時間の問題である。
故に出回っている依頼の中には、屋敷内外の護衛…というものがちらほら見える。
一難が去る前に、また一難がのしかかってくるとは…なんと災難なことだか。
これだから貴族は。
…やれやれ、と独り肩を竦め、くわえていた粗食の切れ端を噛まずに飲み込んだ。
………そろそろ、この街から離れようか。
近々賊の襲撃があるならば尚更である。
護衛の依頼は確かに金になるが……正直、面倒臭い。
面倒臭いのは、嫌いだ。
所持金はあまり無いが、軽く安価な携帯食糧でも買おうか…とアオイは周囲を見回した。