亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
太陽が昇っていても相変わらず薄暗い風景。
雪が止んでいる今、街の中はそれなりに人で溢れていた。
視界の端から端へと横切っていく人混み。その中に商人はいないだろうか…と、泳ぐアオイの目は。
………ピタリと、奥の伝え木を凝視する人影に、止まった。
街の民や商人に混じって、伝え木に張り出された文字の群集を眺めているその背中は、一人だけ浮いている真っ白なマント………言わずもがな、誰が見てもそれは狩人だった。
その狩人はただじっと、伝え木の情報を見ている。…字など読めないくせに、何をそんなに見ているのだろうか。
…などと、最初は変わった狩人だな…と思っていたアオイだったが、その背中をよくよく観察してみると………何だか…何処かで見たような狩人の…様な…………。
「―――………ザイロング?」
思わず、その名前はアオイの口から漏れ出た。
…間違いない。あの長身で大柄な身体。
何より、その醸し出す空気が他の人間とは違う。
街嫌いな彼がこんな街で、しかも人通りの多い場所にいるなど有り得ない事だが、現に彼はいる。
彼と最後に会ったのは約一ヶ月前。
犬が飛んでいるなどと変な嘘を吐かれ、まんまと撒かれてしまうという妙な別れ方をしたが………まさか、また彼と再会出来るとは。
(……あ…そういやあいつ、字が読めるし書けるんだよな。………しかし何でまた…こんな所に………?)
何か、仕事を探しに来たのだろうか。
そんなことを思いながら、アオイは軽い足取りでザイに歩み寄り、「ザイローング~」と、声を掛けた。