亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
―――…すると、矢も何も番えていないのに………本来矢がある部分に、キラキラと瞬く白い結晶が、空気中から集まり出した。
それはすぐに形となり……一度瞬きした時には……………いつの間にか、細い氷の矢が存在していた。
……青白く光る凍りの矢。
掴んでいる部分にはちゃんと矢羽があり、矢尻はその辺の刃物よりも鋭利に出来ている。
高く跳躍したレトの身体はまだ上昇する中…………レトの矢は真直ぐ、目下の蟲に狙いを定めた。
……利き目で獲物を真直ぐ捉え、両肘に力を込め、右の頬に触れる凍て付いた矢の冷たさを感じながら……。
「―――……………………君の心臓は何処なの…?」
―――…上半身をバネの様にして、矢を………放した。
…ギュン、という心地良い音色と共に放たれた矢は、小さな白い光を瞬かせ……。
…蟲の背中の甲殻を、ある一点のみを目指して、突破った。
……レトの矢が身体を貫くや否や、蟲は悲鳴一つ上げずに口から血やら胃液を吐き出し……………………あっという間に、動かなくなった。
………矢は急所を貫いたらしく、即死の様だった。
………トン、と離れた所に着地し、レトは弓の握り部分をグッと力を込めて掴み直した。
……すると、細い弦は消え失せ、ねじれた両端の先端は収縮を始め………すぐにまた、短い枝に戻った。
「………」
殺した蟲の屍をじっと見詰めながら、レトは弓をマントの内に引っ込めた。