亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
一部始終を見ていたらしいザイは、同じ様な長い弓を持ってレトに歩み寄って来た。
ザイの後方には、散々切り付けられ、穴だらけになった巨大な蟲が横たわっていた。
ザイが握っていた弓も、枝分かれしながら収縮していく。
「…………腕を上げたな、レト………」
「………この蟲、普通の成虫より小さかったから………」
ポツリと呟いて、レトは蟲の屍のすぐ側でしゃがんだ。
………この短い時間で降り積もった甲殻の上の雪を払い、矢で貫いた傷口に触れた。
………甲殻が少し柔らかい。…………子供だったのかな。
………親子を殺してしまったのかな。
…冷たい巨大な身体にそっと顔を埋め、そのゴツゴツとした肌に額を当てた。
「―――………生を受けた者として、生を狩る狩人として…全ての精に、命に、感謝します。…………………………………………………………ごめんね…」
最後は誰にも聞こえないくらい小さく呟いて、レトは立ち上がった。
何事も無かったかの様にザイに顔を向け、そして………二人揃って、後ろに振り返った。
…視線の先にいるのは…………子供を腕に抱えて、ただ無言で佇む女性。
掛かる雪を払おうともせず………不安げな瞳で、ザイとレトを見詰めていた。
………女性の細い首には、キラリと光る石。
………先程の狩人が死に際に、ザイとレトによこした証石の………もう半分。………片割れだ。
「………………谷を上がるぞ。……………………獣が臭いに釣られて来る……」