亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「―――…最悪、な結果にならなかったにせよ………今回はただ単に、運が良かっただけ。悪いことには変わりない……その辺り、よく分かっているな?」
「承知しております」
「…お前の承知はどこまでが本気か分からんよ。おかげで私は人間不信に陥りそうだ」
「申し訳ございません」
「………口は詫びていても、お前の顔には反省の色が見えないな」
「―――………反省は、しておりません」
「………正直者に育ってくれて、私は嬉しいよ…ザイロング」
互いの顔が微かに見えるか見えないかの、薄暗く狭い、外界から切り離した様な孤立した空間。
闇の中で静かに行われている尋問では、中央に片膝を突いて頭を下げながらも一切の感情を見せない無表情を浮かべ、全く反省の意を表さないザイに……神官は白い顎髭を撫でながら溜め息を漏らした。
神官の、老いてはいるが何処か異様な光を秘めた瞳が、話し掛けぬ限りひたすら無言で跪くザイをじっと見下ろす。
………育ての親、という程ではないが、幼い頃の彼に様々な学を叩き込んだ神官。
この老いた恩師と教え子の再会には、実に十年以上もの月日が経っていたが………まさか、再会で尋問をする羽目になるとは、さすがの神官も予想を超えたこの展開に呆れていた。
しかも極めて、重大な過失の尋問である。
「………我々、狩人の世界にも…掟というものがある。一体、いつの長老が作ったものなのか分からんほど古い、錆びついた掟だが………掟は、掟だ」
秩序を保つための掟。
己のため、家族のため、伝統のため、これからの歴史のために、守らねばならないもの。