亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「―――何処か怪我は…」
「………大丈夫です。………お気遣い無く…」
「………しかし…顔色が悪い。………………あまり寝ていないでしょう…」
「…………少し疲れているだけです…。………長旅…でしたので」
結局朝が来るまでは、同じ洞窟で一夜を明かすことになった。
暁が顔を出すにはまだまだ時間がある位。
中央の小さな焚き火に、痩せ細った手を翳す女性と、その脇に横たわる目を覚まさない子供。
その二人を焚き火越しに交互に見詰めながら……フードに顔を埋めて黙りこくるレト。
「………レト。………………人見知りは良くないと言っているだろう。………寝るか話すか、どちらかにしなさい」
……見兼ねた父が低い声で言った。
………何とか打ち解けた相手としか話せない、極度の人見知りのレト。
……眠ろうにも、他人がいるとどうも落ち着かない。
女性は疲れ切った顔に笑みを浮かべた。
「……別に…良いんですよ…。………大人しいお子さんで……謙虚ですのね…」
「………大人し過ぎて困ります。それにまず、謙虚ではない。…何だその目は…………名前くらい言いなさい、レト。……………改めて………私の誠名は、ザイロング=クウ。………見ての通り、狩人の端くれです」
ギロッ、とザイがこちらを睨んできたので、レトは渋々顔を上げた。
「………レト、です。………誠名は…レトバルディア=クウ。……この間…11歳になりました。…………見ての通り………この人の息子です」
「………レト…」
顔をしかめたザイから逃れる様に、レトは再びフードに顔を埋めた。