亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
…元来、狩人は伝統も文化も歴史も価値観も異なる街の民との共生を計るために、極力、双方の接触を避ける事を掟の基盤とした。
掟の中には、禁忌というものがある。
絶対の掟。禁忌は幾つかあるが…。
「………分かっているならば、答えられるな?……お前の犯した、禁忌が…」
神官の冷たい声に、ザイは暗い地面を見詰めたまま……呟く様に、答えた。
「―――……第二の、禁忌………『狩人の血縁に、異端なる者の血の介入を許さず』」
「………その、通りだ。狩る者の世界に異端者の血が入ることは許されていない。………しかしながら何なのだ、ザイロングよ。………お前が抱く、その赤子は」
そう言って神官が指差す先には………ザイの腕の中で衣に包まれ、静かに寝息を立てる小さな赤ん坊の姿。
何も知らず、知る由も無く、すやすやと幸せそうに眠っている。
…神官は、頭を抱えた。今日、何度目か分からない溜め息をまた一つ吐いてみたが、気分は晴れるどころか猛吹雪だ。
「………先日の、とある街での火災…バレないとでも思ったか?………事は大きくならずに済んだが…お前の罪はしっかりと残っている。………異端の人間と関わった揚げ句………いつの間にか、子供まで孕ませおって…」
「………………子に、罪はありません」
「ああそうとも、ザイロング。赤子に罪は無い。ただ……不幸なだけだ。そして全てを抱えて裁かれなければならないのは、お前だ」
「………はい」
ザイは微動だにせず、神官の言葉に耳を傾け、そして淡々と答える。
…今回のこの騒動が長老の耳に入ることは、想定の範囲内だった。
何せ、長老の付き人であるこの神官は、千里眼の持ち主だ。バレない筈が無いのだ。
異論も、何も無い。与えられる罰は受ける。