亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
………罰を受けるのは、苦ではなかった。
なぜならザイにとって、与えられる罰は………自分が胸中の奥底で抱いていた願いでもあったからだ。
……だが、願いが叶うと同時に…自分は狩人の汚点そのものとなるだろう。自分だけではなく…この赤子も………そんな親の子供だと蔑まされるに違いない。
………それこそが、罰なのかもしれない。
頭上から、神官の冷淡な声が響き渡る。
ザイはゆっくりと…目を閉じた。
今は………これで。
「…本来ならば、お前も赤子も切り捨てるが…生憎、お前は他とは違って特別な人間だ。………『剥奪』が、お前への罰である。…ザイロング、そなたに裁きを下す」
……これで、良いのだ。
「…今日をもって………正式名『ザイロング=クウ=リィタ』の名から、嫡子を表す『リィタ』の姓を消す。………よって、ザイロングよ。………………お前はもう、次の『長老』の継承者ではない。………………ただの、堕ちた狩人だ。………良いな?」
―――『リィタ』。
それは、全ての狩人の頂点に立つ『長老』の継承権を持つ者………即ち、長老の子供であることを意味している。
…生まれながらにして、ザイは未来の長老を望まれていた人間だった。
現長老の一人息子…御曹子であったザイ。
…だが今日をもって………ザイは、ただの狩人に堕ちた。ただの人間になった。
………それが、ザイの望みだった。
長い間抱えていた肩の荷が下りた様な、そんな感覚。不謹慎だが………何処かで、ホッとしている自分がいた。
「―――…お受けします」
暗闇の向こうの、更に奥。
姿は見えぬが確かにいるであろう、偉大なる長老。………偉大なる父に向かって、ザイは呟いた。