亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~







―――…去れ、という神官の投げ放った最後の言葉を受け取り、ザイは踵を返して真っ暗な一本道の奥へと向かった。


神官のものとは異なる、射抜く様な鋭く重い視線を背中に感じた。
誰もが震え上がる『長老』の眼光は、栄光ある名誉の代わりに汚名を抱える事を選び、狩人の歴史を汚したザイの背を…押した。


次期長老の位から、ただの狩人…堕ちた罪人となったザイを待っていたのは、同族達からの冷たい視線の数々だった。

元々、狩人達の中には次期長老の嫡子であるザイをあまりよく思っていない者もいた。
その事と今回の面汚しが重なったせいか……ザイに対する世間の多くの目は、彼を狩人の恥と見なす様になったらしい。

デイファレトの世界樹である、純白の大木『アルテミス』の暗い内部から出るや否や…明るくなったザイの視界に映ったのは、日暮れ前の薄暗い白銀の世界と………ちらちらと舞い散る粉雪の中でザイに無言の視線を注ぐ、同士達の、姿。





アルテミスを囲む様に佇む、多くの狩人達。

純白のマントにフードをしっかりと被った彼等の顔は見えないが…その下から微かに覗く不気味な眼光のどれもが、まるでゴミか何か…汚いものを見るかの様な嫌悪感に満ちた目で、ザイを睨んでいた。
…中には、刃が剥き出しの剣を握りしめ、ゆらゆらと揺らしている物騒な輩の姿も目につく。




大柄な大人も、背丈の低い子供も、皆………殺気にも似た鋭利な空気を醸し、ゆっくりと歩き出したザイをじっと目で追う。


集中する同士達の重過ぎる視線をかい潜る様に、ザイはフードも被らず柔らかな雪を浴びながら、視界の先に広がる深い森に向かう。






本の数歩だけ、歩いた所で。




………何処からか飛来した小さな礫が、肩にぶつかった。
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