亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
…それが皮切りとなったのか、大小の礫が四方八方から飛来し、ザイに浴びせられた。
小さなナイフまでもが放たれ、マントの裾を裂いていく。
………そしてあちこちから小さな声が矢の様に飛び、頑ななザイを刺し、えぐる。
「面汚しめ」
「恥を知れ」
「とんだ嫡子様だな」
「潔く死ねばいいものを」
「死を選べ」
「早く何処かに行ってしまえ」
「貴様こそ異端だ」
昨日までの自分ならば、誰もが自分を敬い、誰もが自分を…避けようとしていた。
だが、堕ちた今の自分に向けられるのは……屈辱のみ。
………酷く、惨めだ。
しかし、不快ではない。不快どころか、まず何も感じない。悔しさも、怒りも、何も無い。
心は酷く静かで、酷く冷めきっていて。
無音の世界に、ザイはいる。
全く反応も無く、全てを振り切る様に再び歩み始めるザイ。周りはそれが気にくわなかったのだろうか…何処からか舌打ちが聞こえてきたかと思えば、シュッ…と、刃が空を切る音が鼓膜を震わせた。
明らかな殺意を秘めたそれは、ザイとの距離を一気に詰めてきた。…しかし、ザイは防ごうとも避けようとも、何をするつもりもない。
…飛来する殺意を素直に受けることも、罰の一つであり、当然の報いだ。
肌を貫く痛みが走るのは今か今かと待つザイだったが………次に聞こえたのは、刃と刃がぶつかり合う甲高い響きだった。
同時に、視界の隅を掠めていく小さなナイフ。
真後ろにはいつの間にか、誰のものとも知れない人影。咄嗟に振り返ったザイは、その顔を見るや否や大きく目を見開いた。
「―――お前ら…何してんだ!!」