亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
幸せなら、それでいい。
この子が幸せなら、私はどうなろうと構わない。
どんな犠牲を払ってもいい。
幸せは、無限ではない。分かっている。
だから…今だけは。終わりを迎えるその時までは。
この幸福を、噛み締めて。
「このっ、馬鹿が!生後間もない赤ん坊がコップを使える筈がないじゃろうが!!それと生肉も食わんぞ!!焼いても食わんぞ!!固まってないで動け馬鹿が!!………あぁ…先が思いやれるわい…」
「いや、すまん。………コムは………………何も、聞かないのだな…」
「金にならん情報は要らん。…それに……………お前さんがどうしようと、構わんわい…。………まぁ、赤子を抱えたお前さんのミスマッチ振りには驚いたがの。………にしても、この赤ん坊…全く泣かないのぉ…笑いもせんわい。………お前さんに似て、無愛想な子に育ちそうじゃな。しかしこれは…別嬪さんになるぞ…」
「………男の子だが…」
「なんだ、野郎か。拍子抜けじゃの。………………そういえば…この坊主の名前は決めたのか?」
「―――…レト。…レトバルディア。………今朝、決めた」
「………レトバルディア?……何かの単語みたいな名前じゃの。…意味でもあるのかい?」
「………ああ。………………狩人の…今はもう使われていない古典語で。………………意味は…」
―――“愛”。