亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
状況は、昨日の夜から極めて慌ただしいものへと豹変していた。
創造神アレスによるお告げの運命の日。…弓張月が昇る夜の前夜と迫った昨日………突然、バリアンが動き出したとフェンネルの城に報告が入った。
昨日の夜更け。
しっかりと武装したバリアンの軍隊が、城から国内中央に広がる砂漠地帯に進行したのだった。
広範囲に進行するバリアン兵士は、フェンネルとの国境沿いにまで足を伸ばしていた。
その奇行に一時、バリアンの奇襲か何かと城内は騒がしくなったが、偵察の結果…そういった気配はないようだった。
昨夜から今朝に続く、目的不明のバリアン兵士らの進行。
大半が首を傾げていたが…ダリルにはおおよその見当はついていた。
恐らく、今からバリアン国内で生じるのは………。
「―――…内紛、だね」
「…内紛………で御座いますか…」
真後ろを歩く顎髭をたくわえた執務官の一人が、書類から視線を外して呟いた。
「バリアンには、反王族意識から寄り集まった国民層の反国家組織がある…のは周知の事実だけど。…確か通称、『三槍』だったかな。…この三槍が、今回のデイファレトの騒動で……どうやら、劣勢に陥ったらしいね。詳しいことは分からないけど。…だから恐らく、今度のバリアン兵士の進行は、その弱った害虫を駆除しちゃおうっていう目的からじゃないかな」
「…なるほど」
運命の夜が今夜と迫っているが、デイファレトにばかり目を向けている訳ではない。むしろ、バリアンには目を光らせていた。
バリアンの老王様は、フェンネルが敵意を見せてこない故にやりたい放題…の様だが、フェンネルもやる事はやっている。
…偵察、隠密の類いに関しては三大国一という隠れた実力なのだ。