亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
螺旋階段の一段目に腰を下ろしたまま、ルウナは騒々しい城内の観察を続ける。
傍らには、今の今までルウナに城中を散々乗り回され、疲労困憊で死んだ様に泡を吹いているルアがいたが、誰も気が付かない。
階上へと遠ざかっていくダリルの後ろ姿を眺めたまま、『ナイフン』って何だろう…とか考える。
言葉での意味は知っている。だが、本質的な意味はよく分からない。
とにかく、良いものではないことは確かだ。
暑いと聞く砂漠の国では火花が散りっぱなしだし、寒いと聞く雪の国では王政復古に向けて皆慌ただしい。
現時点では自分の国だけが平和を築いているが、それも凄惨な過去を越えてきたからこその平和である。
過去を歩いてきた、我が偉大なる母上様と違って、当たり前だが自分は何も知らない幼児に過ぎない。
それが時々、疎外感を感じさせる。
何も出来ない自分は、今は大人しくこの大きなお城にいることしか出来ない。
やる事といったら、毎日の勉強と、花畑の水やりと、お手紙を書くことと…。
(………………今朝はまだ……母上からお手紙……来て、ない…)
ローアンが城を出てから毎日毎日。
朝、必ず何処からともなく飛んでくる鳥によって届けられていた母の手紙だが…今朝はまだ来ていなかった。
………そのため、ルウナの小さな心は、早朝から言い知れぬ不安に満ちていた。
…数分ごとにあちこち歩いたり走ったりと…じっとしていられない。
………忙しいのだろうか。…母に、何かあったのだろうか。………いや、あの強い母に限って…そんなことは無いと思う。護衛には、ジンが付いているのだし。
………だから、大丈夫。………大丈夫。
………。