亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
自分に向けられている男の悲痛な声は、憐れみか。それとも同情か。
………心配されているのだろうか。
そうだったら、とても嬉しいわ。
こんな化け物のお婆さんでも、心配されているなんて。
なんて、素敵。
今まで感じていた孤独感が、まるで嘘の様。
男の声を背に、静かに喜びを噛み締めながら、イーオはひらひらと片手だけを振って見せた。
「…あら、大丈夫よお隣りさん。こう見えても私、結構タフなお婆さんでね…それに、ちょっとだけ強いのよ。……………………………………私なんかを街に置いてくれて、ありがとう。さようなら」
通路の闇に塗れると、吹雪の歌声も、そして男の声も、聞こえなくなった。
たった一つの頼りのランプを膝に置き、イーオはゆっくりと前へ進んで行く。
おんぼろの車椅子が軋む音だけが、何処までも続く通路内を響き渡る。
壁から壁へと反響する音が面白い。
真っ暗な闇の中で、イーオは歌を口ずさむ。
老婆の奏でるか細い音色が、ひんやりとした空気に波紋を浮かばせる。
「―――…お腹はいっぱいでしょうか―…紅茶のおかわりはいかがでしょうかぁ―……」
まだ自分が、少女だった頃。
色褪せた記憶が。
奏でる音色にのって蘇る。
懐かしい思い出が。まるで昨日の出来事の様に。
『イーオは慎んでお断りします、王子』
『…な、何で!?どうしてだい!?……み、身分差なんて関係ないから!僕は小さい頃から…イーオが好きなんだ!結婚するならイーオって決めていたんだ!…何で駄目なんだい?』
『―――あら…だって私…』
―――…私、好きな人がいるんですもの。