亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
どちらかと言えば女性体型に近い、すらりとした長身をうんと伸ばし、ノアは少し屈んでレトを覗き込んできた。
「さすがは狩人。お早い起床ですね。……いい夢を見れましたか?」
「………………見てない。…ノアは?」
「私は基本、寝ません。寝るのが嫌いなのです。私が見る夢は、いつも遠い昔の思い出ばかりでして………過去に誘う夢程、残酷なものはありませんから」
相変わらずの読めない笑顔でけろりと答えると、ノアは軽くスキップをしながら薄暗い廊下の奥へと歩を進めていく。
何処に行くの、と声をかければ……なんとも脳天気な声で、散歩、とだけ返された。
遠ざかっていく背中と、変な鼻歌。
レトはちらりと背後の部屋を一瞥し、数秒の間を置いて……不意に立ち上がった。
途端、胸に抱いていたアルバスの小さな身体が反動で床に転がり落ちる。
それは見事壁に激突したが、当の雛鳥は腹を天井に向けた、鳥の寝相とは到底思えない体勢で睡眠を続行していた。
なんだか人間くさいアルバスから視線を逸らし、レトはそのまま真後ろの部屋にそっと入った。
所謂、放置というやつである。
廊下同様に薄い暗い室内。
部屋の両端にある寝台の上の膨らみは微かに上下に揺れ、規則正しい寝息を漏らしていた。
起きるにはまだ早い。
寝ているのは当然か。
今度は室内で、再び扉を背に座り込んで大人しくしておこうと思案していたレトだったが…ふと、寝台の内の一つにそっと近寄った。
枕元まで来ると、その場で床に腰を下ろす。
薄暗がりの中、そこに見える輪郭は曖昧だが、枕に頭を預けているその人物を、レトは同じ目線の高さで見詰めた。
「………起きるの……早いね…」
「………………寝てないだけよ」