亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
瞼を開いたドールは、気怠そうに口を開いた。
あまり眠れなかったのだろうか。一夜明けた今も、その顔色は優れない。
かといって眠い訳でも無いようで、ただ悪戯に刻々と過ぎていく時間を持て余していたようだ。
反対側の寝台で眠るユノを起こしてしまわないように、レトは小声で彼女に話し掛けた。
「……………身体の具合…どう?…熱はまだある?」
「…最悪からは、脱したわ。…熱は下がった」
「……良かったね。………早く…元気になってね…」
「………………元気になったって…もう遅いのよ。…生きてる意味…無くしたもの…。………………ねぇ、あんた………………どうしてあたしを助けたの…?」
仲間を、生きる支えを失った自分が…まだこうやって生きている。他人の手によって生かされている。……その事実にどうしても納得いかないドールは、死にかけていた自分をここまで導いた張本人のレトを軽く、睨み付けた。
狩人は非道で残酷。特に異国の人間などには嫌悪感を抱き、容赦無く刃を向けてくる…と、聞いていたのだが。
情報は、デマだったのか。
それともこの小さな狩人だけが例外で、異常な程お人よしなのか。
はっきり言って、余計なお世話をしてくれたものだなと思っている。
…見捨ててくれた方が良かった。いっそのこと、あの場で息の根を止めてほしかった。
それなのに…この狩人は。
ドールの鋭い睨みに少しも怯むことなど無く、レトは小さく首を傾げながら「………えっとね…」と再度口を開いた。
「………僕、小さい頃からね……………………たくさん、人を殺してきたんだよ…」
「………」
何を言うかと思えば…とんでもない事を、彼はいつもの無表情で言ってのけた。