亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
主旨の掴めない彼の話はまだ続くようで、ポツリポツリと、彼の声が囁かれる。
無視しようと思えば出来る事なのに、何故か大人しく聞いている自分がいた。
「………向かって来るのは皆、僕と父さんを殺そうとする人ばっかりだったから……生きないといけないから………僕、たくさん人を殺したんだ…」
老若男女問わず。
殺意を向けてくる者は、切り捨てる。射殺す。殺られる、前に。
生きるための行い。そこに、感情は無い。ただ機械的に武器を構え、相手の動きを捉え、急所を見定め、息の根を止める。
顔なんか、見ちゃいない。
それが、狩人。
僕の、唯一知っている生き方。
…だけど。
「………他に、方法があるんじゃないかな…って…思うようになった。…ユノが、ね……悲しい顔………するんだ…。……僕…誰かを悲しませることしか……してなかった…みたいで…」
そう思う様になってから、レトは自分を取り巻く全てのものへの見方が、本の少しだけ…変わった様に感じた。
他人の名前や性格、姿…。些細な事にも、関心を持つようになった。
ユノが、よく笑ってくれるようになった気がする。
そして自分では気付かなかったが。
…自分は以前よりも、笑顔を浮かべるのが上手くなっているのだという。
「………ドールは敵で…僕はユノを守るために…君を殺さないといけなかったけど………………だけど………嫌…だったんだ…。………だってドール…本当はいい子なんだもの…」
「………」
そう言って不器用な微笑が微かに浮かぶ、綺麗な顔。
残忍な行いをしてきたとは思えない程の、まるで平和ボケしている様なその柔らかな空気に、ドールは顔をしかめた。