亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
…腹が立った。
いい子とは何だろう。
何なんだそれは。
お前みたいなガキなんかに、何が分かる。あたしの、何が。
奥歯を噛み締めたドールは、眠っているユノなど無視して声を張り上げ様と口を開いた。
「分かるんだ」
不意に放たれたレトの声が、舌の上まで出て来ていたドールの言葉を遮った。
「分かるんだ………そういうの。……雪の精は、悪い人の傍には寄らないから………だから…ドールは、いい子…。………………ドールの事、全然知らないけど………いい子」
「………何よそれ…」
………意味の分からない台詞と呑気な顔を前に、ドールは何に腹を立てていたのか一瞬分からなくなった。…思考、停止。苛立ちのベクトルが何処を目指していたのかど忘れし、狂って頭上を回りだす。
たった今沸き上がった怒りが、一気に削がれ………馬鹿、とドールは苦笑を浮かべて呟いた。
のろのろとしたやや舌足らずな口調は、はっきり言って嫌いだ。もっと早く、ビシッと出来ないのか、ともどかしくなるのだが。………不思議と、この少年に対しては何の不快感も起こらない。
むしろ、彼の放つ角の無い柔らかな雰囲気には、心地良さを感じてしまうくらいだ。
…レトという少年の言葉には、変な魔力が孕んでいるらしい。
「………ねぇ、ドール………僕と、友達になってよ…」
「………友達…って……さっきから何ちくはぐな事ばっかり…」
「あのね、お友達ってね………凄く良いんだよ。友達出来るって、凄く嬉しいんだよ。ユノは、僕の一番最初の友達でね、親友だって言ってくれてるんだよ。…だからドールも、友達。…だから……………………………生きる意味無いとか…思わないで…」
「………」