亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



薄暗がりでも際立つつぶらな瞳が、真っ直ぐドールを見詰める。獲物を狙う狩人の鋭い顔は、そこには無い。

外される気配の無い視線にドールは次第にいたたまれなくなり、跳ね付けるかの様にツンとそっぽを向いた。
…レトの綺麗な顔を同じ目線で、そして割と近い距離で直視し続けるのは少々きつかった。



柔らかな枕にほてった顔を埋めて、好きにすれば、と投げやりに応えれば、レトの嬉しそうな声が返ってきた。

何故か高鳴る胸を押さえながら落ち着こう、落ち着こう…と、念仏の如く唱えるドール。
…だったが、そんな彼女の必死な努力も、次に聞こえてきた第三者の声によって容易く無に返された。





「…あのさー……イチャイチャするなら外でしてくれないかい?」

「あ………ユノ、起きたの?」


いつの間に起きたのだろうか。今の今までスヤスヤと寝息を立てていた筈のユノが、今は横になったまま頬杖を突き………ニヤニヤと、こちらを眺めているではないか。

…もう湯気が出そうな程に顔を赤くしたドールは、ガバッと勢いよく身体を起こした。戦慄く唇は、揺れに揺れている震える声を紡ぐ。

「…ちょっ…!?………イ、イチャイチャって……!!……ななな何言ってるのよ糞ガキ!!い、今の会話の何処が…!!」

「世間一般ではイチャイチャの部類に入るんだよ。あれだよねー。ドールって結構、純情少女だったりするよね―。多分奥手だよねー」

「―――…殺すっ…!!」

そこを動くな…と、凄まじい殺意を放って寝台から下りようとするドールを、レトが慌てて止めた。
急に動いて足の傷が開いたりでもしたら大変である。


怒る牛そのものの鼻息の荒い彼女をきちんと寝かし、軽く頭を撫でてやれば………嘘の様に大人しくなった。
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