亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「外は……まだちょっと暗いじゃないか。もう一眠りしたいところだけど、目が覚めちゃったなぁ…」
分厚いガラスの窓。その先の、極寒の空気と雪が踊り狂っている景色を眺めてユノは呟く。
眠気がすっかり消えてしまった。
その要因には、レトとドールの話し声というのもあるが……興奮して眠れない、というのが主であった。
昨夜からずっと、ずっと、ユノは言い知れぬ緊張で落ち着かない。
何故なら。
(………今夜…か…)
戦士の月は。…弓張月は、今夜昇るのだ。
あの厚い雪雲の向こうに隠れた太陽が宙をさ迷い、山々の後ろへと再び身を隠した後。
………待ちに待った夜が、訪れる。
待ちに、待った。
何年も、待った。
そうだ、今夜は。
僕が。
………ああ、待ち遠しい。
冷たくて無機質で恐ろしい常しえの闇が住まう夜が。
「………………変わる日だ。…この国も…歴史も………………僕も…」
窓の向こうの景色が白から黒へと変わるその時を待ちながら、ユノは誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
双方が黙れば途端に静かになった室内。半ばふて腐れたドールを不思議そうに見詰めた後、レトはふと…吹雪が吹き荒れる外の世界に意識を向けた。
ビュウビュウと聞き慣れた雪と風の不協和音。
それは相変わらず絶え間無く続いていたが……その中に紛れた異質な音色に、レトは首を傾げた。
「…どうしたんだい、レト?」
「……………うん…」
曖昧な返事を返すレトに、ユノは瞬きを繰り返した。半開きの瞳で、レトはじっと外を眺めている。
「………山と…森が…………鳴いてる…」