亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「…では、楽しい我慢比べといきましょうか」
笑顔でそう言って、力無く脇に垂れていた片手を上げた…途端。
ノアを中心に、大理石の地面に真っ黒な魔法陣が音も無く現れた。
ゆっくりと回転するそれは妖しい漆黒の光を放ち、ノアが細い指先を軽く振る度に、陣の中には不可思議な…それでいて美しい模様が刻まれていく。
解読不可能の古代文字らしき群衆が、丸い縁に沿って群れをなして走っていく。
……ピリリと、黒い火花が魔法陣から上がる。
…何故だろうか。
近くにいるだけで、奇妙な寒気が身体を襲った。…無意識の内に、三人はノアから数歩後退していた。
それから一分も経たぬ内に、グンッ…と、魔法陣の大きさが一回り増した。
陣はいつの間にか、二重になっている。
「城を壊される前に、私があの石を早々に満腹にしてさしあげましょう。極上のフルコースでね。魔石の力が弱ってくれば、外に出られますよ」
「……そんな…だ、大丈夫なのかい?」
レトの後ろから怖ず怖ずと顔を覗かせ、心配そうに言うユノに…装飾の浮かぶ緑の瞳は笑い、そしてゆらりと光った。
「御心配無く。………あれ、言ってませんでしたっけ?……………………………私って一応、歴代の魔の者の中では最強なんですよ」
フフン、とまるで子供の様に胸を張って誇らしげに宣言する様は、あまり威厳を感じられるものには見えなかったが……自称、最強という二文字の称号は嘘八百では無いようで…。
…見る見る内に魔法陣は巨大化し、膨れ上がり…ふと真上から日光とは違う異質な光を感じて見上げてみれば………城全体を覆い尽くしてしまうくらいの黒々とした雲…否、漆黒の馬鹿デカイ魔法陣が、そこにはあった。