亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
その、世にも恐ろしい光景を少し前にも見ているドールは、脳裏を過ぎった苦い記憶に顔をしかめた。
「…勿論、破壊には時間はかかりますよ。………その間、あの男が何もしてこなければ良いのですが………ああ、それはどうやら無理の様ですね」
やれやれ…と、呆れて笑うノアの見詰める先には、空の魔石を握る手とは反対の手で、すらり…と鞘から剣を抜くゼオスの姿。
この魔力が盛大に渦巻くカオスな空間では、空の魔石を扱う彼だけが自由に動くことが出来る。
その彼が、何か行動に出ない筈が無いのだ。
…魔石によって出来たらしい傷からは、相変わらずボタボタと鮮血が滴り落ちている。
だがゼオスはそんなことなどお構い無しに肩で息を切らしながら、黒い光を全身に纏いながら………悪魔の如き笑みを浮かべて、その巨大な剣を固く口を閉じている門に振り下ろした。
恐ろしく速く、そして力強い斬撃が、純白の門を叩く。
…頑丈な筈の門は本の数回の衝撃で、その表面に激しい凹凸と傷を刻んだ。
…あの男、どれだけ馬鹿力なのだろうか。
…あの門を破れば、当然ゼオスはそのまま真っ直ぐにこちらに向かってくるに違いない。…魔石を前に手も足も出せないこちらは、城内に逃亡するしかないが……奴に入られるのは何かと厄介だ。
…血走った、焦点の合っていない目が、こちらを見ている。…狂っている。どうやら、正気を失っている様だ。
「………いいじゃない。……あっちから来てくれるなら…好都合よ………………ここで、あたしが…あいつを…!」
「ドール…だから駄目だってば……!」
「ここで食い止めなきゃならないんだったら、結果は同じじゃないの!…ほら…来るわよ!嫌なら坊や二人は逃げなさいよ!…あたしが…ここで奴を殺してあげるから…!」